東京地方裁判所 平成8年(ワ)5784号 判決 1999年6月29日
原告
後藤敬子
右訴訟代理人弁護士
木下洋平
右補佐人弁理士
阿部英幸
被告
小林製薬株式会社
右代表者代表取締役
小林一雅
右訴訟代理人弁護士
大場正成
同
嶋末和秀
右補佐人弁理士
増井忠弐
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告は、原告に対し、金六八四万七一〇〇円及びこれに対する平成八年四月九日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、脇下汗吸収パッドについての実用新案権の侵害を理由として損害賠償(遅延損害金の支払を含む。)を求めている事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している。
実用新案登録番号
第一九五七七七八号
考案の名称 脇の下用汗吸収パツド
出願年月日 昭和六〇年五月二一日
出願公告年月日平成四年五月一九日
登録年月日 平成五年三月二四日
2 本件実用新案権に係る明細書(平成二年八月二三日付け手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲第一項の記載は、次のとおりである(以下、この考案を「本件考案」という。)。
「吸水・吸臭層と止水層とを備える袖添付け部と身頃添付け部とを吸水・吸臭層を外面側とし止水層を内面側に対向させて重合し、両添付け部を彎曲連結部で相互に連結し、袖添付け部と身頃添付け部の内面側に両面接着テープを取付け、袖添付け部と身頃添付け部の縁部を前記彎曲連結部より曲率の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状としたことを特徴とする脇下汗吸収パッド。」
3 本件考案の構成要件を分説すれば、次のとおりである(以下、各構成要件をその符号に従い「構成要件A1」のように表記する。)。
A1 吸水・吸臭層と止水層とを備える袖添付け部と身頃添付け部とを有すること、
A2 袖添付け部と身頃添付け部とを吸水・吸臭層を外面側とし止水層を内面側に対向させて重合し、両添付け部を彎曲連結部相互に連結していること、
A3 袖添付け部と身頃添付け部の内面側に両面接着テープを取付けていること、
A4 袖添付け部と身頃添付け部の縁部を前記彎曲連結部より曲率の小さな三つの彎曲を連ねた縁形状としていること、
A5 脇下汗吸収パッドであること。
4 被告は、平成四年五月一九日から平成七年一二月三一日までの間に、別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造・販売し(以下、被告製品の各構成を別紙物件目録記載の符号に従い「構成a1」のように表記する。)、その総売上高は、一億一六九四万二〇〇〇円である。
5 被告製品は、構成a1、a3、a5において、構成要件A1、A3、A5を充足する。
二 争点
1 被告製品が本件考案の技術的範囲に属し、被告製品の製造・販売が本件実用新案権を侵害する行為に該当するかどうか。
(一) 被告製品が構成a2において構成要件A2を充足するかどうか。
(原告の主張)
構成要件A2のうち、「袖添付け部と身頃添付け部とを吸水・吸臭層を外面側とし止水層を内面側に対向させて重合し」は、吸水・吸臭層を外面側とし止水層を内面側に対向させて袖添付け部と身頃添付け部とが二つ折りにされている態様を含むものであり、また、「両添付け部を彎曲連結部で相互に連結していること」は、一体成形された両添付け部が湾曲折り曲げ部で二つ折りにされている態様を含むものであるから、被告製品は、構成a2において構成要件A2を充足する。
(被告の主張)
構成要件A2は、「重合し」あるいは「相互に連結し」という点において、袖添付け部と身頃添付け部という元々独立している二つのものを結合することが示されているところ、被告製品は、袖添付け部と身頃添付け部が一体成形され、湾曲折り曲げ部で折り曲げられているから、構成要件A2を充足しない。
(二) 被告製品が構成a4において構成要件A4を充足するかどうか。
(原告の主張)
構成要件A4のうちの「曲率の小さな」という部分は、「曲率半径の小さな」の明白な誤記であり、これを「曲率半径の小さな」という意味に解釈してその構成要件の文言上の充足性を判断すべきであるから、被告製品は、構成a4において構成要件A4を充足する。
(被告の主張)
「曲率」とは、曲線上の与えられた点でその曲線にもっともよく近似する円(曲率円)の半径(曲率半径)の逆数を意味し、「曲率の小さな」と「曲率半径の小さな」とは技術用語としての意味が反対であるから、構成要件A4のうちの「曲率の小さな」という部分が「曲率半径の小さな」の明白な誤記であると解することはできず(このことは、本件明細書の「曲率の小さな」という記載を「曲率半径の小さな」と改める訂正を無効とする訂正無効審決がされ、これが確定したことからも明らかである。)、被告製品は、構成要件A4を充足しない。
(三) 被告製品が、構成要件A4のうちの「曲率の小さな」という部分を「曲率半径の小さな」に置換した点において、本件考案と均等かどうか。
(原告の主張)
被告製品は、構成要件A4のうちの「曲率の小さな」という部分を「曲率半径の小さな」に置換した点において、最高裁判例(平成一〇年二月二四日第三小法廷判決・民集五二巻一号一一三頁)の示す均等の成立要件をすべて充足しており、本件考案の技術的範囲に属する。
すなわち、右のように置換しても、彎曲連結部と三つの彎曲を連ねた形状の縁部を有するという点で技術思想としての本質に変わりはなく、本件考案の目的を達することができ、本件考案と同一の作用効果を奏するものであって、「曲率半径の小さな」場合が本件考案の実施例として開示されていることからすれば、その置換が容易であることも明らかである。また、「曲率半径の小さな」場合は、新規性・進歩性を備えており、原告が出願手続において、実用新案登録請求の範囲から「曲率半径の小さな」場合を意識的に除外したような事実もない。構成要件A4に係る明細書の記載が誤記であることが明らかな本件においては、当該記載に対して保護すべき第三者の信頼があるとは到底考えられず、禁反言の法理が働くものではない。
(被告の主張)
構成要件A4は、本件考案を従来の公知技術から区別せしめる構成要件であり、本件考案の本質的部分である。また、構成要件A4は、原告がその実用新案登録出願手続において公知技術に基づく拒絶を回避するために行った補正によって挿入追加され、かつ、原告自身がその本質的部分である旨を強調した構成要件であって、客観的に第三者との関係でみる限り、「曲率半径の小さな」場合を意識的に除外したものと評価されて当然であり、「曲率の小さな」という部分を「曲率半径の小さな」に置換した場合について均等を主張することは、禁反言の法理によって許されるものではなく、仮にそうでないとしても、本件明細書の「曲率の小さな」という記載を「曲率半径の小さな」と改める訂正を無効とする訂正無効審決が確定したのであるから、右のように置換した場合について均等を認めることは、訂正無効審決の確定を無意味にするものであって、法的安定性を著しく害するから、均等の成立を妨げる特段の事情があるというべきである。したがって、被告製品は、本件考案と均等ではない。
2 被告の過失の有無
(被告の主張)
仮に被告製品が本件実用新案権を侵害するものであるとしても、被告には、その製造・販売時に侵害の認識がなく、かつ、そのことについて過失がないから、損害賠償責任を負わない。
3 原告の損害額
(原告の主張)
本件実用新案権の実施に対し通常受けるべき金銭の額は、被告製品の総売上高一億一六九四万二〇〇〇円の五パーセントである五八四万七一〇〇円を下らない。
また、原告は、被告による本件実用新案権の侵害によって、本件訴訟及び本件実用新案権に係る審決取消訴訟の遂行を原告代理人に委任せざるを得なくなったものであり、右侵害行為と相当因果関係のある弁護士報酬は、一〇〇万円を下らない。
したがって、被告の本件実用新案権の侵害行為によって原告が被った損害の額は、合計六八四万七一〇〇円であり、被告は、原告に対し、右金員を賠償すべき義務がある。
第三 当裁判所の判断
一 甲第一号証ないし第三号証、第七号証及び第八号証、乙第一号証、第二号証、第四号証、第一〇号証、第一三号証ないし第一五号証及び第一七号証ないし第二二号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 原告は、昭和六〇年五月二一日、本件考案について実用新案登録出願をし(以下、これを「本件出願」という。)、本件考案は、昭和六一年一一月二八日、出願公開された。本件出願当初の明細書(以下「当初明細書」という。)には、袖添付け部と身頃添付け部の縁部の形状に言及する記載はなかったが、本件考案の実施例を示すものとして、袖添付け部と身頃添付け部の縁部が彎曲連結部より曲率の大きな(曲率半径の小さな)三つの彎曲を連ねた縁形状とされたものの図面(別紙図面A)が添付されていた。
2 平成二年六月一一日、本件出願は、その考案が、その出願前国内において頒布された刊行物に記載された考案に基いて、その出願前に、当該考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がきわめて容易に考案をすることができたものと認められることを理由に、拒絶査定された。そこで、原告は、同年八月二三日、右拒絶査定を不服として、その取消しを求める審判を請求するとともに、同日、当初明細書を全文にわたって補正した。同日付け手続補正書による補正後の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」には、袖添付け部と身頃添付け部の縁部の形状が初めて記され、それが彎曲連結部より曲率の小さな三つの彎曲を連ねた形状である旨が記載されていた。また、右審判の審判請求書には、本件考案の特徴は袖添付け部と身頃添付け部の縁部が彎曲連結部より曲率の小さな三つの彎曲を連ねた縁形状とした点にある旨が記されていたが、他方、右の補正事項は当初明細書に添付された図面の記載に基づくものである旨も記されていた。
3 特許庁は、平成四年二月一三日、原告による右補正を認めて、本件考案について出願公告をすべき旨を決定し、同年五月一九日、本件明細書の記載とこれに添付された図面に基き、本件考案を出願公告した。そして、同年一一月一三日、右拒絶査定を取り消し、本件考案を実用新案登録すべき旨の審決がされ、本件考案は、平成五年三月二四日、実用新案登録された。
4 その後、原告は、平成五年七月五日、本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」における「曲率の小さな」という記載を「曲率半径の小さな」に訂正する旨の訂正審判を請求し、平成七年一一月一六日、右訂正について、明瞭でない記載の釈明であるとして、これを認める旨の審決がされた。被告は、平成八年五月一〇日、右審決による訂正を無効とする旨の審決を求めて訂正無効審判を請求し、平成九年二月二五日、右訂正は明瞭でない記載の釈明に当たらず、また、単なる誤記でもなく、訂正前の登録請求の範囲に含まれていない構成の考案に登録請求の範囲を変更するものであるとして、右訂正を無効とする旨の審決がされた。これに対し、原告は、右訂正無効審決の取消しを求めて、東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起したが、平成一〇年三月一七日、その請求を棄却する旨の判決が言い渡され、同年九月一〇日に、最高裁判所により、右判決に対する原告の上告を棄却する旨の決定がされ、右訂正無効審決が確定した。
二1 まず、被告製品が構成a4において構成要件A4を充足するかどうか(争点1(二))について検討する。
2 乙第三号証(マグローヒル科学技術用語大辞典・第二版)によれば、「曲率」とは、曲線上の与えられた点でその曲線にもっともよく近似する円(曲率円)の半径(曲率半径)の逆数を意味し、「曲率の小さな」という語と「曲率半径の小さな」という語は、全く反対の意味であると認められるところ、構成要件A4は、袖添付け部と身頃添付け部の縁部を彎曲連結部より曲率の小さな三つの彎曲を連ねた縁形状とするものであり、構成a4は、袖添付け部と身頃添付け部の縁部を彎曲連結部より曲率半径の小さな三つの彎曲を連ねた縁形状とするものであるから、被告製品が構成a4において構成要件A4を文言上充足しているということはできない。
3 原告は、「曲率の小さな」という部分は「曲率半径の小さな」の明白な誤記であり、これを「曲率半径の小さな」という意味に解釈してその構成要件の文言上の充足性を判断すべきである旨を主張する。
たしかに、前記一認定のとおり、袖添付け部と身頃添付け部の縁部の形状については、当初明細書には何ら記載がなく、その後、拒絶査定に対する審判請求の際にされた平成二年八月二三日付け手続補正書による補正後の本件明細書において、初めてそれが彎曲連結部より曲率の小さな三つの彎曲を連ねた形状であると記されたものであり、他方、当初明細書には、その実施例を示すものとして、袖添付け部と身頃添付け部の縁部が彎曲連結部より曲率の大きな(曲率半径の小さな)三つの彎曲を連ねた縁形状とされたものの図面(別紙図面A)が添付され、右審判請求の請求書には、右の補正事項は当初明細書に添付された図面の記載に基づくものである旨が記されているものであって、右図面は、補正後の本件明細書においても添付されている。
しかしながら、他方、甲第二号証、第七号証及び第八号証、乙第一号証、第二号証、第一三号証及び第一四号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件考案は、脇下汗吸収パッドについて、従来の三日月形状のものでは袖繰りに沿う中央部では十分な汗吸収面を確保できるが、前端及び後端部に至るに従って吸収面積が急激に減少してしまい、脇の下全体にわたる吸収面の確保が困難であるという問題点があったことから、パッドの形状を工夫することによって、面積に比して吸収範囲の広い脇下汗吸収パッドを得ることで、従来技術における右のような問題点を解決することを目的とするものであるところ、袖添付け部と身頃添付け部の縁部を形成する三つの彎曲の曲率が彎曲連結部の曲率に対して小さい場合であっても、パッドの両端部に従来の三日月形状のものに比べて広い範囲の吸収面を確保することができ、前記の問題点を解決し得ることからすれば(別紙図面B参照)、本件考案については、本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」の記載を字義どおりに解しても、当業者において、その技術的意義を明確に理解でき、これを実施することが可能であるものと認められる。
そうすると、本件明細書においては、「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」における縁部の彎曲の曲率に関する記載内容と本件考案の実施例を示す図面とが整合しないという点があるにしても、「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」における「曲率の小さな」という記載が「曲率半径の小さな」の明白な誤記であると認めることはできない。したがって、右の「曲率の小さな」という記載について、訂正審判を経ることなくこれを全く反対の「曲率半径の小さな」という意味に解釈することは、文言解釈の限界を超えるものとして、許されないというべきである。
加えて、本件においては、前記一4に認定のとおり、本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」中の「曲率の小さな」という記載を「曲率半径の小さな」と改める訂正を無効とする訂正無効審決が確定しているものであって、実用新案権侵害訴訟において考案の技術的範囲を定めるに当たり、審決により無効とされた訂正を施したのと同一の結果となるような文言解釈をすることは、訂正審判制度の趣旨を没却するものとして到底許されるべきではない。
三1 次に、被告製品が、構成要件A4のうちの「曲率の小さな」という部分を「曲率半径の小さな」に置換した点において、本件考案と均等かどうか(争点1(三))について検討する。
2 実用新案権侵害訴訟において、実用新案登録に係る願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が当該実用新案権に係る考案の本質的部分ではなく、(2)右部分を対象製品におけるものと置き換えても、当該考案の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに、当業者が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品が、実用新案登録出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時にきわめて容易に推考できたものではなく(実用新案法三条二項参照)、かつ、(5)対象製品が実用新案登録出願手続において実用新案登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品は、実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、当該考案の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成六年(オ)第一〇八三号同一〇年二月二四日第三小法廷判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。
3 前記2(5)の要件は、いわゆる禁反言の法理から導かれるものであるが、実用新案登録出願において、出願人が、いったん考案の技術的範囲に属しないことを承認した場合に限らず、その内心の意思にかかわらず外形的にそのように解されるような行動をとった場合においても、実用新案権者が後にこれと反する主張をすることが許されない趣旨というべきである(前掲平成一〇年二月二四日第三小法廷判決参照)。けだし、出願人において一定の外形を作出した場合において、実用新案権者が後になって右外形に反する主張をすることを許すときは、右外形を信頼した第三者の利益を不当に害することとなるからである。
これを本件についてみると、前記認定の事実によれば、本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」には、袖添付け部と身頃添付け部の縁部の形状について、彎曲連結部より曲率の小さな三つの彎曲を連ねたものでみると記されていたが、他方、その実施例を示す図面としては、「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」における右記載とは異なり、彎曲連結部より曲率の大きな(曲率半径の小さな)三つの彎曲を連ねたものが掲げられていたことになる。このような本件明細書の記載からすれば、原告は、縁部の形状を彎曲連結部より曲率の大きな三つの彎曲を連ねたものとする構成を、本件考案の実施例を示す図面として自ら掲げているのであって、本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」にその構成を記載することが可能であったにもかかわらず、これを記載せず、かえってこれとは異なる構成のみを記載したものということができる。そして、前記のとおり、本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」の記載を字義どおりに解しても、当業者において、その技術的意義を明確に理解でき、これを実施することが可能であることなどをも併せ考えれば、原告は、本件考案についての実用新案登録出願手続において、本件考案の技術的範囲を、袖添付け部と身頃添付け部の縁部の形状が彎曲連結部より曲率の小さな三つの彎曲を連ねたものに限定したと外形的に解される行動をとったものというべきである。そうすると、本件考案の構成要件A4のうちの「曲率の小さな」という部分において、被告製品は「曲率半径の小さな」である点で本件考案とその構成を異にするものであるところ、この点の相違については、前記2(5)の均等の成立を妨げる特段の事情があるものというべきである。
4 したがって、仮に被告製品が本件考案の他の構成要件をすべて充足するものであったとしても、本件考案と均等であると認めることはできない。
四 以上によれば、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきであるから、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官中吉徹郎)
別紙物件目録
次の構成の脇下汗吸収パッド。
(構成)
a1 吸水・吸臭層2と止水層3とを備える袖添付け部1と身頃添付け部1'とを有し、
a2 一体成形された両添付け部1、1'が吸水・吸臭層2を外面側とし止水層3を内面側に対向させて湾曲折り曲げ部4で2つ折りにされており、
a3 袖添付け部1と身頃添付け部1'の内面側に両面接着テープ7が取付けられ、両面接着テープ7には剥離紙8が取付けられており、
a4 袖添付け部1と身頃付け部1'の縁部5は湾曲折り曲げ部4より曲率半径の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状になっている、
a5 脇下汗吸収パッド。
(図面の簡単な説明)
第1図は全体斜視図。
第2図は正面縦中央断面図。
第3図は両面接着テープ部分の断面図。
第4図は正面図。
(符号の説明)
1 袖添付け部
1' 身頃添付け部
2 吸水・吸臭層
3 止水層
4 湾曲折り曲げ部
5 縁
7 両面接着テープ
8 剥離